作:たつみ
また一匹悪魔を殺した。
街道に魔獣が出現したので退治してほしい。
普段は近づきもしない俺の家に村人がきたのは3日前であった。
その村人は少し震えている様子で前金のマッカを置いたら、すぐに逃げ去るように帰った。
よほど悪魔にやられたこの顔の傷が醜いだろうなと苦笑した。
俺もあの日以来自分の顔を見ていないからな。
いつものように防具を付け、そして顔を護るフルヘルムを装備し、腰に短銃を装着し、そして使い古された剣を担いだ。
まずい干し肉などの保存食を詰め込んだバックを持ち、街道に向かった。
村を通るといつもように村人は俺を遠巻きに見る。いつも頼っている割には冷たいものだ。それともデビルバスターは悪魔がいなければただの厄介ものか。
魔獣が水を飲む泉まで無事到着した。
途中、ハーピーやらゴブリンなどの小悪魔は出てきたが、銃で威嚇しただけで勝手に逃げていった。
ここからが狩る者と狩られる者との我慢比べだ。
相手に悟られない様にキャンプを作り、何日も待つ準備をした。
1日経ち、2日経ち、待っている間いろんな思いが浮いては消えた。
村のこと、これから退治する悪魔のこと、報酬をどのように使うかなど様々な思いが湧いて出てきたが、
しかし、頭から離れないのは仕事のパートナーで愛した妻そしてまだ幼かった息子。
あの時力が足りなかったから守り切れなかった。この硬い傷痕が悔恨の証。
今でも覚えている、泣いて謝りながら冷たくなった彼女の身体。
そして無残に殺された息子の姿。
回想にふけっていたその時、かさかさと物音が聞こえ出した。
獲物かどうか慎重に観察した。
顔が猿で胴体は虎で尻尾には毒蛇が生えていた。
鵺か、どうやら目的の悪魔らしい。
他の悪魔の気配を探ったが、どうやら一体しかいないらしい。
ならすぐに終わるな。
ゆっくりと近づき、確実にしとめられる距離まで近づいた。
そして・・・・・・
呆気ないものだった。
首に斬撃をあたえ、鵺は生き絶えた。
首を切り落とし、帰る準備をした。
血に汚れたまま村に帰ったら、余計に怖がられるなとふと思った。
兜を外し、泉を覗き込んだ。
違和感がある。
今写っている顔は何だ。
固い皮膚に覆われているこの顔は・・・・・・。
俺の顔か?
この傷が無い顔が?
こめかみにあるこの小さな角は何だ?
まるで俺が鬼みたいではないか?
―――――――――
思い出した。
俺はマスターの使い魔だった。
そして……マスターと愛し合ってしまった。
子供も産まれ、幸せの時間が続くと思った。
だが、邪鬼の群れが村を襲い、息子が殺された時、
俺は気が狂ったように戦った。
・・・・・・
俺はマスターを切り裂いた。
あいつは死ぬ間際でも「私は死んでも、自分を責めないで・・・」と言ってくれた。
でも、俺は自分を許せなかった。
むしろ俺に侮蔑の言葉を投げかけてくれた方が慰めになった。
俺は何をすべきかいいか分からなかった。
マスターのあとを継げば何か見つかると思った。
人間の真似事をして、この村を護ることを誓った。
いつしか俺が悪魔であることさえ忘れてしまうほど、長い年月が経っていたんだ。
愛するものたちの墓の前で俺は泣いていた。
俺はどうすればいい?
自分が人間だと思ったから人間と関わりを持てた。
いや、村の人は俺が悪魔であるから俺を恐れた。
俺が勝手に人間と関わりを持っていると思っていただけだ。
すべてを思い出した俺はもうあの村には戻れない。
しかし、ここから離れたくない。
また、俺は忘れたい。
俺が悪魔であることを・・・。
後書き
ラブクラフトの『outsider』からアイデアを拝借しました。
やっぱり巨匠は超えられないなとしみじみ思ってしまいました。
本当ももっとダークな表現にしようかなと思ったけど、第一弾だし、ちょっと抑え目にしました。
もしお読みになったら感想を教えてください。
次回作に反映したいので、よろしくお願いします。