偽典・女神転生 東京黙示録

第二話「恐怖」

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きたる再受験のために、再び悪魔学の教科書を読み返していた。
しかし、やる気が生じない。
デビルバスター試験に落ちた事が今でも信じられない。
気分転換の為に少し散歩しにいこうか。
部屋を出て、居住区を少し廻った。
ついでに配給所に寄ることにした。
「おう、葛城くんか。」
早坂の父の勝さんだ。この配給所で働いている。
「こんにちは」
「おう、試験に落ちたって聞いたよ。
なーに、一回の失敗ぐらい気にするな。」
「まだまだ、チャンスがありますから。」
「そうか。・・・・・・ところでだ。
達也のやつは口下手だが、あれで根はいい奴なんだ。
今後とも、宜しく頼みよ。
はいよ、今月の配給品だ。」
「ありがとうございます。では・・・・」

その帰り道、
「よお、知多!ひとりで遊んでいるのか?」
「葛城お兄ちゃん!遊んで、遊んでー!」
「何して遊ぶ?」
「じゃあねー。デビルバスターごっこ!」
僕は、知多とデビルバスターごっこをして、遊んであげた。
「知多!!何時まで遊んでいるの?」
陽子さんだ。
「あら、史人君。ちょうど良かった。時間はあるかしら?」
「時間はありますけど、何か御用事がありますか?」
「うちの人にこの時計を届けて欲しいの。いつもお守り代わりに持って行くのに、今日は忘れているのよ。」
この時計は父の形見の時計と同じ型である。
西野さんは昔、「この時計は葛城隊長から贈られた物だ。」と言っていた。
いつも大切に身につけていたので、忘れた事に少し驚きを感じた。
「勿論、いいですよ。」
すぐにデビルバスター待合室に向かった。

扉を開けるといきなり山瀬の不満声が聞こえた。
「あーあ、つっまんねぇ!!退屈だよったく。」
「銃の手入れでもしろよ。恋人よりも大切なんだろ?
おっ、葛城! こいつってさ、超マニアなんだぜ。
人間の女より銃が好きなんて、不健全だよな!」
「あー、早坂、そういう事を言うワケ?
まぁ、カレー好きのイエローには分からないと思うが、
女より大切なものは他にもあるの。」
「何?何なの?」
英美が興味津々で聞いた。
「ピンクから聞かれちゃ、答えてやらないとな。
この改造バリバリの超アームターミナルよ!
へっへーん!!」
「やれやれ。また改造したのかよ。
それになんだよ、頭になんでも"超"つけんなよ。」
「今度はすっごいんだぜぇ・・・・・あのさ・・・・・・」
「いいよ説明は。
んで、前のはどうしたんだよ?まだ使えんだろ?」
「やだねぇー。体力にモノいわしてるだけの奴は。」
「なんだと!!」
「まあまあ。葛城くんが、呆れてるじゃない。」
「そういや葛城、何かあったのか?ん?
何かあったら言えよ。」
「頼りになるぜぇ、俺たち、超DBはさ!」
「どうせ、交代時間までは、俺達ここに詰めてるからさ。」
「西野さんに、この時計渡そうと思ってね。家に忘れたらしいんだ。」
「今、隊長は会議に出ているんだ。代わりに渡してあげようか?」
「頼むよ、達也。」
「おう、任しとけ。」
待合室を出て、自室に戻ろうとした。

部屋の前まで来ると、床一面に細々とした箱や、薬瓶などが散乱していた。
「あ、葛城くん。
ごめんね、今すぐ片付けるから!」
由宇香は、床に散らばったディスクや医療キットなどを、慌てて拾っている。
手伝うのは面倒に感じた僕は、このまま由宇香を放っておこうかと思った。
しかし、男である以上は、そういう訳にもいかない。
まして、試験に自分が落ちて由宇香が受かった事を、ひがんでいると思われるのも癪だった。
結局、少しためらった後、手伝うことに決めた。
「でも、そんなの悪いわ。これも仕事の内なんだもの。」
(じゃあ、勝手にどうぞ)
・・・・・・・と言いたいところだが、自分もそこまで子供じゃあ無い。
ぐっと我慢し、有無も言わさず由宇香の荷物に手を掛けた。
「あ・・・・・・。」
僕は、由宇香が必死で抱えていた荷物の束を軽々と持ち上げた。
それを見て、由宇香は何やらきょとんとしている。
「・・・・すごい!やっぱり、男の人って力持ちなのね。
ちょっと感動しちゃった。」
結局、備品を運ぶ手伝いをする為、B5Fの詰め所へと行くことになった。
合格していれば、自分がいたであろう場所である。
苦い思いが湧いてくるのを何とか押しのけ、心配そうな由宇香の後をついて行く・・・・・・・。

「たぁぁぁぁいくつでしにそぉぉぉぉぉ!!」
DB待合室に入るとまた山瀬の声が響いた。
「いい加減にしろよ。
俺達が退屈だって事は、シェルターは平和って事だ。
忙しくってたまるか!」
「そうだよ、山瀬!
事件なんて、起きない方がいいんだから。」
「へいへい。夫婦でガミガミやられちゃたまんねぇや。」
「ばッ・・・馬鹿な事言うな!」
「ふ・・夫婦ってなによ!」
達也と桐島は顔を真っ赤にしていた。
「いい加減にしろ。ほら、橘君と葛城君の荷物、山瀬、お前が手伝って整理するんだ。」
「ええええ!」
西野さんの命令に山瀬にとって薮に棒であった。
「退屈じゃなくなって良かったなぁ!」
「ケッ!」
そのとき、桐島は通信機から連絡を受けた。
「はい、こちらデビルバスター第二部隊。
・・・・・・・・・・はい、
・・・・・・・・・・はい、
分かりました。至急西野に報告し、出動致します。」
「何かあったのか?」
「はい。
シェルター隔壁に、外部から悪魔が攻撃を仕掛けている模様。
管理部から、至急駆逐する様にとの命令です。」
「悪魔のデータは?」
「今、通信で送られてきています・・・・・・・分かりました。
名称まで分かりませんが、魔界植物系悪魔の様です。」
「どれどれ?
はっはあ〜ん。使う魔法が精神魔法だけか・・・・・。
おまけに知力が低いじゃねえか。こりゃ楽勝だな。」
山瀬は片付けより楽な仕事を見つかったと喜んでいるようだ。
「よし、今すぐ出動する。山瀬、早坂、桐島、準備しろ!」
「了解!!」
「橘君!」
「は、はいッ!」
「君は、まだ実戦には早い。それに、それほど手強い敵でも無い様だ。
君はここに残り、連絡係として待機せよ。」
「了解!」
「準備完了っす!」
「あ、私ニュートン連れて行きます。
アナライズさせて、悪魔資料を増やさないと・・・・・」
「よし、急げ!
我々は、先に現地に向かう。」
「了解!」
「では、行くぞ!!」
「そうだ、葛城、戻ったら、お前にいいモンやるよ。
それまでの間は、橘さんと、イイ事でもしてな!
じゃあな!」
西野たちが、慌ただしく出動して行った。
「ふう。山瀬さんったら、すぐに変な事言うの。
あの、気を悪くしたりしないでね、葛城くん。」
「ちょっと迷惑かな。」
少し恥ずかしかったから、気持ちと裏腹の事を行ってしまった。
「えっ・・・・・・・そ、そうよね。ごめんね、葛城くん」
由宇香の顔に一瞬陰りが見えた。
・・・・が、それは一瞬の事。
努めてそうしているのか、前よりも明るいそぶりを見せる。
「ええっと・・・・・お、お茶でも入れようか?
私、やれる事って言ったら、まだお茶汲みぐらいなの!
葛城くんは、何がいい?」
「渋く珈琲」
「分かったわ。ちょっと待っててね。」
給湯室の方で由宇香が、せわしなく動いている。
「ごめんなさい!
紅茶もコーヒーも、切らしているみたい。
緑茶でいいかしら?」
「それでいい。」
「うふふ、良かった。
私の父って緑茶好きなの。それでこれだけは自信があるんだ。
ちょっと待っててね。」
給湯室の方では由宇香が、せわしなく動いている。
少しカタイところもあるが、案外可愛いかも知れない・・・・・。
「お待たせ!カップはこんなのしか無いんだけど。
味は保証付よ、多分。さあ、どうぞ召し上がれ。」
目の前に、アルミの無骨なカップに入った緑茶が置かれている。
湯気の向こうには、緊張した面持ちの由宇香が見える。
悪くない構図だ。ここが詰め所でなければ尚良い。
「あら、通信だわ。
ええっと、ここのボタンを押して・・・・」
『こちら・・・・・・ガガガガ・・山瀬・・・・・扉の・・
・・・板が・・・ガガガ・・悪・・・・・ガガーピー・・・』
ノイズ音は一層酷くなり、そして突然静寂に包まれた。
「やだ、スピーカーになってる。このボタンを押して・・・・
もしもし!もしもし!!
えっと、通信呼び出しは・・・・・こうして・・・うーんと、よし。
もしもし!こちら橘です。応答願いします!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「駄目だわ、応答が無いわ。
きっと何か起ったのよ!
どうしたらいいのかしら・・・・・・!!」
由宇香が必死に、自分がどう行動すれば良いかを考えている様だ。
辺りは、緊迫した空気に包まれる・・・・・
思案していた由宇香が顔を上げた。
不安気な気配は既に無く、毅然とした表情に変わっていた。
「葛城くん。
貴方はデビルバスターでは無いけど、これを持って行けばゲートロボットは通れるわ。
それと、小型通信機。
私は管理部に応援を要請するから、貴方は1Fまで言って様子を見て来て欲しいの。
もし、通信機が完全に壊れていないなら、近くまで行けば通信できるかも知れないわ。
お願い!急いで!!」
口を挟むいとまもなく、由宇香からIDカードと小型通信機を渡されてしまった。
しかし、西野達の身に何かあったのだとすれば、このまま捨て置くわけには行かない。
由宇香に目で合図をし、僕は、詰め所を後にした。
僕の胸にある想いが包んだ。
(どうして僕が・・・・?)
外へ続く道にはガード・ロボットが警護している。
ロボットは、僕が近づくと警告を発し始めた。
『ココカラ先ハ 危険デス
許可ナキ場合ハ オ通シデキマセン』
由宇香から預かったIDカードを、ロボットの電子アイにかざした。
『緊急時 通行許可ヲ確認イタシマシタ
ドウゾ オ通リクダサイ』
あっさり通してくれた。
エレベーターを使おうとしたが、今1Fにいる。
明らかに階段で行った方が早い!
地上に続く階段を上り始めた。

階段を上がる途中、由宇香と管理部の応答が聞こえて来た。
どうやら通信機のモードが、ONにされたままらしい。
『こちらデビルバスター第二部隊、橘由宇香!
どうか、管理部応答願います。』
『こちら管理部。
どうしましたか?』
『隔壁の悪魔撃退に向かった当部隊隊員より、先程
通信が入ったのですが、どうも様子がおかしいのです。』
『落ち着いて。
通信内容を明確に報告して下さい。』
『それが、通信の電波状況が悪く、
内容が聞き取れずに・・・・・・・・・』
『では、状況が詳しく分かり次第、
再度報告を行なって下さい。』
『そ・・・・・そんな時間はありません!
応援部隊の派遣を、至急お願いします!』
『・・・・・・・了解しました。
報告を受けた旨、上層に伝えておきましょう。
以上で通信を終わります。』
『ちょっと待って!あのッ・・・・・』
ブツッという、通信を一方的に切る鈍い音が聞こえ、再び通信機は沈黙した。

まだ、地上につかない。
その焦燥感の中で・・・・・
再び、由宇香と管理部の応答が聞こえてきた。
『こちらデビルバスター第二部隊、橘由宇香!
管理部応答願います。』
『こちら管理部。
どうしましたか?』
『応援の要請は行なわれたのでしょうか?!』
『少々お待ち下さい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
応援要請は受理されています。
尚、只今、第一部隊から通信が入っておりますので、
そちらにつなぎます。』
『こちら、デビルバスター第一部隊、隊長、野坂稔だ。
現在、応援部隊要請を受け、出動準備にかかっている。
約15分ほどで、隔壁に向かう予定。』
『お願いします!
どうか、急いで下さい!!』
『了解!』
通信が切れた。
応援部隊が出動するようだ。しかし、すでに時間がかなり過ぎている。
西野達は無事だろうか?いずれにせよ、急がねばならない・・・・・

ようやく地上についた。
隔壁の向こう側から、激しい戦闘音がここまで聞こえてくる。
しかし、隔壁のような、鉄と鉛で出来た分厚い扉の内側からは、何一つ成す術が無い。
その時、通信機から聞き慣れた声が聞こえて来た。
『どうか、管理部応援を願います!
入力板が悪魔に破壊され、こちら側からは開きません!
こちら側から開きません!!
どうして応答が無いのッ!!』
桐島の必至の叫び声が聞こえた。
『さっきの電撃波で、通信機もやられたに違いない。
出力が弱まって、シェルター内まで電波が届かないんだ!』
『悪魔データが違うじゃねーか!
クソッ!!ラボのボケ老人どもめ!
こいつが、ここまで強いなんて・・・・・・
うわっ!!』
『山瀬!!』
通信機がぶつかったのか、凄まじいノイズ音が響き渡る。
そして、先程より聞こえ難くなったものの、再び通信機に音声が入って来た。
『誰かッ!!誰か、応援を!!!』
桐島の声に我に還ったかのように、僕は通信機の存在を思い出した。
西野さんでも苦戦する悪魔。
もしこのドアを開けて、悪魔が襲い掛かってきたら・・・・・・
悪魔に襲われるという恐怖心に囚われ、
通信機を持ったまま動けなかった。
そして再び通信機から聞こえる西野達の様子をうかがった。
『畜生ぉぉぉ!!
銃なんかちっとも効きやしねぇ!
何なんだこいつはッ!!』
『山瀬っ!!危ない!!』
西野さんの怒声が聞こえた。
『グワアッ!!
う・・嘘・・・・だろ・・・・・は・・はは・・・・・・・・
・・・・・腹から何か生えて・・・ら・・・・・・・・・』
『山瀬ーーーッ!!』
あまりにも悲痛な英美の叫び声だった。
『意識は!?』
『あ・・・・ありません!!』
『桐島!早坂!
山瀬の身体を何とかこちら側へ!
その間は、私がヤツを抑える!!』
『了解!!』
通信の様子からでは、山瀬が重傷を負った事をうかがえる。
山瀬が倒れた・・・・・
その重大な出来事に一瞬恐怖心から開放された。
急いで通信機で連絡をした。
「こちら葛城!
橘さんが応援を頼んでいます。
それに、僕は隔壁のすぐ真裏にいます!」
『葛城・・・・くん?
葛城くんなのね!!』
『隔壁の扉を開けてくれ!
このままじゃ全滅だ!!』
『史人!
落ち着いて行動してくれ。
いいか、蓋がされてて分かり難いが、扉左側にID入力板がある。
その入力板にIDを入力すれば、この扉は開くんだ。』
『・・・・・やった・・・・・・・・!
・・・・・・・土手っ腹に・・・・・・命中だ・・・・・・ぜ!
・・・・・・クソ・・・野郎が・・・・・
効いちゃい・・ね・・・・え・・・・・』
『山瀬っ!!無理したちゃダメッ!!!』
『史人!聞こえるか!?
もしもし!!』
「聞こえています!」
『よし!IDを入力するんだ。
いいかい?番号は58147だ。
早坂今だ!ヤツの後ろに周り込め!!
桐島!君は早坂の援護を!!』
『了解!』
『気をつけて!!』
震える手で、言われた番号を打った・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・開かない!!!
『キャアーーーー!!』
『英美!英美!!英美ィッ!!!』
『早坂、落ち着け!!
敵の動きは鈍った。
桐島の身体をこちらへ運べ!!』
『り、了解!』
『様子はどうだ?』
『胸部を貫通・・・・している模様・・・・です。』
『心拍はないのか!!!』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・
あ・・・・・・有りますッ!!』
『よし!心臓から逸れているなら、まだ望みはある。』
『し、しかし、一刻の猶予も!』
『分かっている!
史人!落ち着いてIDを・・・・・!!』
『敵が・・・・・・・・・!
敵が再び攻撃態勢に入りましたッ!!』
『済まんな・・・陽子・・・・知多・・・・・。』
通信からは、生々しい苦戦の様子が流れて来る。
その時、背後から複数の重々しい足跡が近づいて来た。
「君!そこを、どきたまえ!」
「我々デビルバスター第一部隊が、救援活動を行ないます。
貴方は安心して戻りなさい。」

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