いかにこの創られし球界が地獄へと変わったか。
人間と似て非なるものの血で汚れた聖域たる洞窟。
天の遣い魔は己の役目に従い、その白き衣を穢す。
煉獄山の第4冠にて贖罪を決意したものは阿鼻叫喚することさえ叶わず、
死に逝くその身体をかすかに痙攣するだけであった。
半魔半人の少年は羽が付いた肉塊を血塗られた手から払い落とし、
護れなかった幼馴染の元に向かった。
少年にとってただの幼馴染であったはずだった。
悪魔と化した少年と再会した少女は
この世界を己の力だけで旅をしようとした。
少女は少年を頼る事はなかった。
それは少年が異形になっていたから。
再び少年は少女と出会った。
彼女はすでに少年の知る幼馴染ではなかった。
己の意義を追い求める亡者と化した。
そしてあの禍々しい電波塔で擦れ違ったあの時、
少年は彼女に抱いてはならない欲望を抱いてしまった。
うぶだった少年にも彼女の身に何が起こったかわかる姿であった。
彼女のブランド物のデニムワンピースが服としての役割を果たしてはいなかった。
胸の噛み跡。
右腕を隠す紅く染まったジャケット。
スカートから垂れる体液。
ただ敗走するしか活きる道がなく、屈辱に塗れた彼女の顔。
はっきり分からないが、少年の心にはある感情が現れた。
それは嫉妬による怒り。
膨れ上がっていく緑色の感情を妖精の園の主に打つけた。
そこには敵討ちという考えも無かった。
ただ、言い表せない感情をただ発散させるための殺戮だった。
再び出会った彼女を見た少年は己に潜む欲望の声を聞いた。
(なぜ力を持ちながら己の欲望を満たそうとしない)
少年の心底から響くその声は、聞こえてくる喘ぎ声と同調していく。
祭壇の神像の上で憑かれたかのように
初めて男を知り火照ったその身を
失いし右手の代わりに
左手を用い
ぎこちない動作で己を癒す彼女の魅惑的な姿態。
徐々に昇り詰めて行く彼女の痴態。
触れれば今にも堕ちるだろう彼女を襲わなかったのは
まだ残りし人の心の欠片のおかげ。
彼女の昂ぶりが絶頂に達したとき、
少年は力の胎動を感じた。
かつてここに鎮座した破壊を司る神。
容を失えし彼の者は渇望するものを見い出す。
正気を失い放心せし巫女は彼の者の魂を受けいれる。
彼の者の最期のマガツヒの河流が力に餓えしものを包む。
紅きマガツヒが彼女の意思たる黒色に変わり
失われし肢の代わりとなる。
変化する彼女は自らの力では得られなかったその黒き強器を
あたかも愛する恋人かのように恍惚な顔で愛しげに見る。
彼女の発する言葉は生まれもっての帝王ものであった。
しかし、少年には分かっていた。
それは偽りの力を得たに過ぎない哀れな弱者たる少女の自虐的な言葉にすぎないことを。
少年は天使達に囲まれし半神にそのときはもう近づく事ができなかった。
彼女に再会するために虐殺の場に降り立った。
百舌鳥の速贄のごとく屍体が飾られている鳥居を守る様に
一人の巨人が少年を待ち構えていた。
「久しぶりだな。人修羅」
この地で巨人の黄金の鎧だけが唯一血肉で穢れていない。
「人修羅、鬼神トールの名に賭けて貴様との決着をつけたい」
兜から見えるその青い瞳はただ少年一人しか映っていない。
「貴様と私、どちらが真の戦士か、いざ尋常に勝負せよ!」
雷鳴のごとき声にはその身体を動く事ができる限り
決してこの鳥居から先を通さない決意が込められている。
少年は変貌した幼馴染と出会うためには戦うしかない
そして、少年は構えを取った。
おそらく鬼神は仮面の下で満足げに微笑したであろう。
天罰の象徴たる自慢の鎚を振り上げ、力任せに振り落とした。
激しい衝撃と轟音がミフナシロ一帯に広がった。
苦痛に苛まれたマネカタの呻き声も殺戮の喜びによる悪魔達の奇声も一瞬にして静寂に帰った。
しかし、少年は倒れていなかった。
左手一本でその鎚を受け止めている。
「ヨルムンガンドでさえここまでミョッルニルを堪えて切れなかった。
人修羅、さすがだ。
だが、私の力はこれだけではない!!」
強大な鎚が光り輝き、少年の左手に神鳴りが走る。
苦悶の表情を浮かべる少年は右手に魔力を集中させ…
決闘は終わった。
少年は雷神の目を貫いたその右腕を引き抜く。
左手はすでに炭と化し、もう二度と動かせないだろう。
少年の身体に刻まれていた刺青も雷によってその数を増やしていった。
立ったまま往生した鬼神に目もくれず、彼女に会うために傷ついた身体を無理に歩を進ませた。
洞窟では息切れしか聞こえない。
びっこを引きながらただ奥へと進む。
彼は終着点に辿り着いた。
鉄の臭いが鼻腔を擽る。
無数の屍が無造作に積み上げられている。
少年の足元にはこの地の守護者たるものが八つ裂きにされていた。
紅き流れが集まるその中心には遺跡のごとき巨大な岩が存在している。
少年はその岩の上に千晶の姿を見た。
彼女は三人の天の御使いと色事を愉しんでいる。
まるで無邪気な遊びをするかのように淫らに舞っている。
前にも後ろにも愛されながら、それでも足りないのか美味しそうに舐淫をしていた。
嫉妬なのかそれともただ獣欲なのか?
少年はただ彼女の傍に近づきたいために
傷ついたその三肢を使って登攀していく。
登りつめたその先では彼女の乱交が鮮明に彼の脳に焼きついた。
彼女の嬌声が彼をさらに燃え立たせた。
強き意志が右手から迸る。
金色に瞳を輝かせ、蒼白の剣を振り下ろした。
魔の刃は口愛をされていた御使いを上半身と下半身を分離させ、
同時に下で快楽の呻き声を発したものも二度と声を出させないように首を狩った。
彼女の顔に鮮血とともに堪える命令を失ったために白濁液が化粧のごとく掛けられた。
御腹に流れ入る熱きものが充たされた時、彼女は絶頂に達した。
身体の筋肉が全て締まる。
それに耐え切れなかった最後の御使いは放心し、
近づいて来る独特の紋様が刻まれた手の甲には気づかず、
自らの身に起こったことを永遠に認識できなかった。
惚けた魔丞は少年の所業を見、
微笑を浮かべる。
「………くん…何で殺したの?」
上目遣いで少年を見つめる。
「…お……お…れは…」
「あなたには殺す理由はないわ」
死体を跨っていた彼女は少し楽しげに言う。
「ねえ、彼らに嫉妬したの?」
粘着した水音を出しながら立ち上がった。
「ンフフフ…別に気にしなくていいのよ。彼らは道具に過ぎないのだから。
………あなたが私のことで嫉妬するとは思わなかった…」
顔に付いた血と精液を黒き手で拭い、そして淫魔のごとく舐める。
「変わったね、お互いに」
残った人間の手で疵付いた少年の顔を撫でる。
「やっと私の考え方に分かってくれたのね」
「ち…違う!!」
「何が違うの?
力あるものは無いものから全てを奪う事ができる権利がある。
これはこの世界の基本的な法なのよ。
今まで数多の悪魔を殺して生き残ったあなたなら
分かってくれるよね?
この混沌とした世界で唯一私を超える力を持つあなたなら…」
胸を借りるように寄り掛かる少女。
彼に残された理性は少しずつ切れていく。
「私が欲しいのでしょう?」
黒き手で少年を抱きしめる。
「ここも…すご…く…熱…い…
欲望を…私にぶちまけていいのよ。
優れたあなたにはその権利があるのよ」
今までの戦いで破けぼろきれと化したズボンの上を女の左手が蠢く。
「私はいいのよ。
ずっと待っていたの。
あなたが来るのが遅いから…ここにいるつまらない人形を虐め殺してもまだ来ない…
せっかく身体が燃えているのに…我慢し切れなかった。
だから、使い魔に命じてこの身体を慰めていたのよ。
でも、それはただ単のオナニーに過ぎない。
満ち足りない。
だから、私はあなたが欲しい。
あなたと一緒になりたい…」
彼女は唇を重ねる。
少年の初めての口づけの味は苦く鉄の味だった。
「こんな事、私が言ったらおかしいかしら。
渋谷に会った時のことを覚えているわね。
あの時私はあなたから逃げたわけではないの。
あなたの力に惹かれただけ。
それを曝け出すことが怖かった。
本能的にあなたと結ばれたかったのよ。
こんな私はいやらしいかしら?」
動かない少年は腰布を脱がされていく。
「これが私の本性。
前の世界では抑え付けた私の感情。
この世界で無理矢理気づかされ、そして力を手に入れてようやく解放できた。
ふふふ…私にもまだ人間らしいところがあるみたいね。
私は昔からあなたが好きだった。
一緒になるのがあなたでよかった…」
彼女は少年の首に手を腰に片足を回し、勃っている少年に腰を下ろした。
初めて味わう悦楽。
彼女の腰使いは少年を忘却の果てに連れ去ろうとしていた。
少年は正気を失った。
彼は本能に従った。
少女の尻を掴み、自らの獣欲を満たす事に精を励む。
少女は下から突上げられる衝撃に酔いながら、
落とされないように彼の背中に両足を組んだ。
生ける者は存在せぬ洞窟の中で交わっている彼らの音が響き渡る。
まるで神の奇跡に信じるかのごとく荒行を行う修道士のように没頭する彼ら。
二人とも、だらしなく涎を垂らし聖霊に憑かれた呪術師の恍惚状態に陥った。
それは愛の営みというほど甘いものではない。
ただ獣の性交であった。
そんな二人の転帰は、少年によって惹き起こされた。
生命の原初たる粘液が少女の胎内に放出される。
腹内が熱き彼の精液に満たされていく彼女は黒い爪で半魔の背中を切り裂いた。
彼の射精は止まらない。
それでも彼らは激しく動き続ける。
できるだけ多く肌を共有しようと、顔を重ね合わせる。
より身体の内部に互いを侵入するかのように舌を絡めた。
変幻は始まった。
まずは背中の創傷を瘡蓋の様に張り付いていた黒い指先が癒着を創り始めた。
その融合は身体が触れている全ての場所に及んで行く。
次第に彼らの体液も互いに共有する事になる。
舌を離した少女は言う。
「お互い…人としての……欠片が残っている……
この…世界では……半端は…駄目…なのよ…
だから…一緒に…生まれ変わりましょう…
お互いの不純を…取り除いて…
より純粋な…力の…体現者として…
そして…活けるし全てに…もっと…もっと……もっともっと啓蒙するの…
マスラの理を…」
少年の目には光はなかった。
悦楽には浸っているだけ。
それを同意と受け止めた少女は再び濃厚な口づけを始めた。
ミフナシロに蓄えられたマガツヒは彼らを覆い、
紅い球となる。
そして、色が落ちていき、硬い白い繭と化した。
少年は虚空に浮かんでいた。
彼の耳に声が響く。
(あなたは身体だけでなく心も私の理を理解しないといけないの。
ここはそのための場所)
今まで霧が掛かった目は次第にはっきりとする。
ここはディスコ・インフェルノ。
かつて少年が少女と再会した場所。
「……運命はそんなに残酷じゃない。
そうでなきゃ……あんまりだわ」
これは別れたときの最後の言葉。
少年の目の前に千晶がいた。
その姿はあまりにも弱々しい者であった。
少年は去り往く彼女をとどめるため、彼女の手を掴む。
(俺は何で引き止めた)
少年の手に彼女の細い温かみのある腕の感触を感じた。
少女は突然の事に驚いた。
(私にしたいことがあるからのでしょ…)
少年の頭の中に嘲笑めいた笑い声が聞こえた。
「…どうしたの………………くん……冗談は…やめてよね…」
(優れたものは力無き者を自由にする権利はあるのよ。あなたが望む事をやりなさい)
内なる声が少年を悪魔へと変える。
ゆっくり左手が彼女の胸元を掴む。
「お願い…やめて…」
彼女の顔は恐怖で引き攣って行く。
腕を振り下ろした。
彼女の服は一気に破れた。
少女は彼の腕から逃れようとする。
しかし、それは人修羅から逃れる事ができても無様に転ぶ結果になったにすぎない。
人修羅は四つん這いになった彼女に覆いかぶさった。
カグツチが何度満ち欠けしたのだろうか。
インフェルノにいた残留思念共はもう囃し立てる事さえしなかった。
聞こえてくるのは激しいテクノトランスにのっているかのようなかすかな嘆願の声。
人修羅によって穢れに穢れた少女の首にあるのは魔の両手。
その手は次第に彼女の首に喰い込んで行く。
少女の爪が人修羅の腕を傷付けるが、御終いが刻々と近づく。
殻が割れる音がする。
はじめは小さな音。
しかしすぐに至る所から耳を劈くほどの音で満ち溢れた。
(おはよ、新しい私…)
人修羅は動かなくなった少女の身体から去っていく。
光へと進む人修羅。
残された遺体が少年の姿に変わったことをその者は気づかない…
無数の死体が転がっている部屋の中、
黒い翼を持つ少女が座り込んでいる。
いや、彼女は一匹の真似方に
翼がまるで風で舞っているマントのように揺らめくように騎上位で激しく交わっている。
真似方はまったく動かなかった。
いやまったく動けなかった。
その四肢は本来曲がってはならないところにあった。
「殺して……殺して…………」
疲れたように壁に寄り掛かり猫又が壊れたレコードのように呟いている。
「うるさい!」
快楽に身をゆだねている少女の翼は黒き手と変わり、猫又の心臓を貫いた。
猫又は悲鳴も上げずに絶命した。
血が付いたその翼を戻した彼女は、ふと結合部に目を落とした。
そこには怒張した男の性器が自らの存在を主張していた。
修羅は猫の死体を見て苦笑いをし、仕方なく自らの手で自慰をした。
先ほどねじ切った天使の愛液がいい潤滑油になっていた。
女としてそして男として修羅の昂ぶりは昇りに昇り詰めた。
そして、無表情の真似方の顔に白濁の液体がかかる。
もうマガツヒを絞りきれない事を確認した修羅は
足でその能面の様な顔を踏み潰した。
バールのような物で抉じ開けられたドアをどけ、
カグツチの残骸が浮かぶ紅い空の下に修羅は出る。
地上はこの世界の主が力の誇示をした証たる残骸に覆い尽くされていた。
生きるものが一匹もいないことを確認した王は
伸びをするかのようにその黒き翼を広げる。
そして、誰もいないこの世界に向かい吼えた。
「また等しく活えれ!!」
球界に涼しい紅い風が吹く。
散らばっていた残骸は再び元の姿に戻っていく。
蘇れし者達は再び苦行を受けなければならない。
戦うのもいい。
逃げるのもいい。
隠れるのもいい。
しかし、いずれであれ結末は同じ。
ここは多苦処である。
この世界の理はマスラ。
最も優れたものが全てのものの権利を奪う事ができる世界。
生きる喜びもない、死による安穏の眠りもない世界。
ただ主の食欲と性欲を無理矢理満たさなければならない世界。
この世界の事を地獄という。
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あとがき
エロパロにしてはかなり特異な文体で書いた文。
元々H.P.愛玩具が好きで(ホラー)小説を書き始めたので、愛玩具の文体に近づけようとしました。
千晶様との交わりは二の次にトールとの戦闘をいかに表現しようかとかなり悩みました。
結局交わりシーンは合体をすこしエロくしただけで、今から思えば邪教の館でこの合体を行われたという話にすればよかったとすこし後悔。
力を目的にした千晶様の行き着く先は結局どうなるかと考えると
生死を自由に出来ることではないかと思い、
それも自分の気まぐれでいつでもその力を行使できることではないかと結論付け、ストーリーを構築しました
それとはまっていたTEXHNOLYZEの影響を多く受けているSSでもあります。
等活地獄ネタを使おうと思ったのはまさにテクノライズ最終回に比喩的に使われていたためです。
千晶様の言葉のところどころに人気キャラの吉井さんの名文句を混ぜています。