悪魔との遭遇もなく無事目的地に着いたようだ。
ジープは徐々に速度が落ち、停止した。
「さあ、ついたぞ。
ここが、ペンタグラムの前線基地だ。」
園田は安心したような声で話しかけた。
「足元に気を付けて下さい。
けっこう、瓦礫がありますから・・・・・・・・」
上河の肩を借りて、僕はジープを降りた。
そして、僕らは大破壊前に造られたらしき基地の中へと入っていった・・・・・
「ここは、ペンタグラム前線基地。
破壊前の施設、下水処理所を利用したシェルターだよ。」
無機質な通路を歩きながら、上河が話しかけた。
「新宿解放に向けて、今ここは大賑わいだ。
リーダーである、渡邊伸明さんもここにいらっしゃっている。
案内しよう。
・・・・・・・が、その前に、オーラ測定を受けてもらわねばならない。」
園田の聞き慣れない言葉に、葛城は怪訝な表情をした。
「人体から放出されるオーラの数値を測定して、悪魔の侵入を防いでいるんですよ。
悪魔に憑依されていれば、オーラの数値は異常になりますからね。」
そんな園田の言葉をフォローするかのように上河が説明した。
「人体に害のある物じゃあない。
それに、一見はただの部屋だ。心配する事はないよ。」
通路には多数のドーベルマンがいた。
かれらは毅然とした態度で立っている・・・・・・・・
興味を持ち少し観察していたら、園田はその疑問に答えるように説明しだした。
「ここにはやたら犬が多いけど、それも悪魔対策さ。
悪魔憑依を受けた人間を見ると、犬は敏感に反応するらしい。
ここで飼われている犬達は、訓練が行き届いていて、悪魔に対する時以外は、吠える事など全く無いんだ。
そして、無闇に媚びる事もない。
シェルターの様に近代設備など無いここでは、こいつらの持って生まれた感知力が、大いに役立つんだ。
訓練を行なったのは、リーダーである渡邊伸明さ。
彼は本当に利口な人間だ。
彼を見ていると、本来、人間の知恵や思考と言うものは、マニュアルなんかじゃ得られないって事を実感するよ。」
園田はずいぶんとこのレジスタンスのリーダーに心酔しているようだ。
通路を進むと、ちょっとした小部屋にたどり着いた。
そこには、二名のレジスタンスらしき人がいた。
「偵察部隊、帰還致しました!」
園田と上河はその二人に対して報告を行っていた。
「そいつは何だ!」
二人はいぶしかげに僕を観察する。
「彼も、初台シェルターの生き残りです。」
「まーた、逃げ出し組か。
機械に頼るしか能の無いデビルバスター・・・・・・・・・役に立つんかね。」
『シェルター』という園田の言葉に軽蔑を含む視線を僕に向けた。
そんな視線に察知した上河は
「そういう言い方は、無いと思いますよ!
貴方がたの様に、実戦経験は確かに乏しい・・・・・ですが、悪魔に対する知識は、貴方がたより遥かに豊富です!!」
と反論した。
「ふん・・・まあいい。
リーダーも、その辺りは買っているみたいだしな。
とっとと入りな!」
「デビルバスターねぇ・・・・大層な名前だが、一体、どれだけ実戦で役に立つんだか。
精々頑張って、リーダーの期待を裏切らないでくれよ。」
園田と上河はその見張りのレジスタンスの間の壁に向かって歩き始めた。
そして、壁の中に消えてしまった。
恐る恐る壁に向かった。
壁に手を触れると、壁は存在していなかった。
「驚いたか?」
壁を通り抜けた先には園田と上河が笑って僕の様子を見ていた。
「ここがオーラ測定を行うポイントだ。
しばらく、このまま動かないようにしてくれ。」
園田はそう言いながら、少し緊張した面持ちで僕を見ていた。
「ソノ場デシバラクオ待チ下サイ・・・・・」
かすかな、機械音が聞こえる。
その場を動かないようにして、じっと待った。
機械音が止まった・・・・・・・・
「オーラ値、既定値以下。以上アリマセン。
ドウゾオ通リ下サイ。」
「異常無し。・・・・・・・ほっとしたな。」
緊張した雰囲気が途切れた。
「ここまでの間にあった壁、あれはホログラム・・・・つまり立体映像なんだ。
壁が通り抜けられるなんて、すぐには思いつかないだろ?」
上河はさっきの壁のことを説明した。
シェルターほどにはないにしろ、この基地にも悪魔に対しての防衛策が完備されているようだ。
「さて、渡邊さんに面通しだ。
渡邊さんは、他の者達と違って、DBには理解力がある。
実際、大変に利口な人だよ。」
「そうそう、とっても良い人だよ。心配する事無いって!」
そして、僕たちは地下に降りて、レジスタンスのリーダーの部屋に向かった。
その途中の通路で、レジスタンスたちは僕たちに対して嫌な視線を向けていた。
「おい!
デビルバスターさんが、颯爽とお出ましだぜ!
かっこいいなぁ!サインくれよぉ!!クククッ!!」
「デビルバスター・・・・・・・・・・か。
まるで、合成食をナイフとフォークで食うみてぇだな。
過去の遺物に固執するだけで、まったく無意味ってヤツだ。」
「お前ら、元デビルバスターって触れ込みだってな!
でもよ、シェルターん中は、悪魔なんて出ないんだろ?
どうやって、バスターってたんだよ?悪魔共をさぁ!
悪魔とろくに戦いもしないで、デビルバスターってのは、まるっきりお笑い種だな!ハハハ!!」
「ふーん、デビルバスターってそういう格好してんのね。
この間、同じ格好をしたゾンビに遭ったわ。
あ・・・・・ごめん、不味い事言っちゃったかな。
今のは忘れて、ね?!」
「初台シェルターも、悪魔にやられたんだって?
気の毒になぁ!
せっかく、自分達だけが安全な場所に引っ込んで、外で何が起ろうと知らん顔・・・・
気が遠くなるほどの間、隠れ続けて来たってのになぁ!
あーあ、ほーんとお気の毒!!」
「ほんと、可哀相になぁ!
篭っていたシェルターが、壊滅したんだって?
せっかく、自分達だけが助かろうって、
長ーい間セコセコと地下で頑張ってたのにさー!
悪魔ってのは、本当に酷いヤツらだねー、ボウヤ!」
「かっこいいなぁ、デビルバスター制服ってヤツはぁ!
クククッ・・・・・・まったく憧れるぜ!!」
陰口を言い、中にはわざと聞こえるように皮肉っているものもいた。
聞こえてくるのは冷やかしだけではなかった。
真っ向から僕たちを非難するものもいた。
「俺の親父もお袋も、悪魔に怯え、食う物にも困りながら、毎日ビクビクと鼠みたいに暮らしていた。
そして、悪魔にやられて、鼠みたいに死んでいったよ。
お前らシェルターに逃げ込んだ、幸運な人間達には、そんな人生なんか想像も出来ないだろうがな・・・・・・」
「そうだ!デビルバスターだから、何だってんだよ!
シェルター健在の頃は、外の事なんざ知らん顔。
住む場所が無くなったら、途端に仲間ってか?
勝手なモンだぜ!!」
僕は彼らに何を言えばいいのだろうか?
自分には何も反論できないことがわかった。
気が重い。
「………城君!葛城君!ここがリーダーの部屋ですよ。」
上河の言葉で考えを中断した。
そして、ドアが開かれ、
「偵察部隊、園田、帰還致しました!」
「同じく、上河、帰還致しました!」
部屋の中にいたのは日に焼けた薄い茶髪の戦士だった。
年より明らかに若いその風貌からは意志の強さがにじみ出ている。
その振る舞いはシェルターにいたエリートたちよりずっと紳士的であった。
「うむ。で、そちらの少年は?」
「初台シェルターで、デビルバスター部隊に所属していた、葛城史人です。
初台付近で倒れていた所を発見し、応急処置をした所、息を吹き返しましたので、連れてまいりました。」
どうやら園田は僕をデビルバスターと思っているのだろう。
「そうか・・・・・初台の生き残り・・・・・・か。
私が、レジスタンス組織、ペンタグラムのリーダー渡邊伸明だ。
苦難を乗り越え、よく生き抜いてくれたね。
君達の様な、悪魔の知識を豊富に持つデビルバスター出身者は、この地上から悪魔を殲滅する事を目標とする、我々人類の未来に、大きな光を投じるものだ。
ペンタグラムには、まだまだ悪魔に対する知識が不足している。
君達が来てくれて、本当に助かるよ。」
「…こちらこそよろしくお願いします。」
「ところでだ…」
渡邊は僕を見つめていた。
「君はデビルバスター部隊では何を担当にしていたのかね?」
「……魔法戦と………悪魔を使役すること…です。」
その言葉を聴いた渡邊は僕のアームターミナルに目を引いた。
園田と上河もその言葉に反応していた。
「つまり、君はD.D.CとD.D.S.を持っているのかね?」
「…はい。」
すこし渡邊は考え事をしているようだ。
「ふむ。……今後はその能力を活かし、全ての地上に生きる人間達の為、有効に使って欲しい。
そうだ、幹部達を君に紹介しよう。」
そう言うと、渡邊は通信を始めた。
「新メンバーの紹介をするので、至急詰め所に集まってくれ。
あと、この前の二人も連れて来てくれ。
以上だ。
さて、詰め所へ向かおうか。」
詰め所は最も下の階にあった。
中に入ると、歴戦の戦士たちや奇妙な作業服を着た技術者らしき人たちが集まっていた。
そして、それを確認した渡邊は第一声を発した。
「全員揃っているな?
では、紹介しよう。
こちらは、初台シェルターにおいて、デビルバスターとして活躍していた葛城史人だ。
この度、その能力を評価し、ペンタグラムの一員として、迎え入れる事となった。
以前紹介した園田なども、彼と同じくデビルバスター出身だが、葛城くんの場合は、その中でも特殊な技能を持っているのだ。」
「特殊な技能とは?」
「コンピューターを用い、悪魔と会話する事が可能なのだ。
それだけではない。
その会話によって、悪魔を仲間にする事も・・・・・・・」
「悪魔を仲間にするですって!!」
彼らの間にざわめきたった。
「そうだ。
仲間になった悪魔を、彼は自由に行使する事が出来る。」
「そんな馬鹿な・・・・・」
「これは、我々にとって大変有利な事だ。
出来得るならば、我々も彼からその術を学び、今後は是非とも活用して行きたいと考えている。
協力してくれるな、葛城君!」
突然の渡邊の申し出に、僕は何と答えて良いのか分からず、口をつぐんだ。
「・・・・・・・・突然、こんな話を持ち出して済まなかった。
今言った事は、別に今すぐにという訳ではない。
落ち着いて、良く考えておいてくれ。
・・・・・という事で、だ。
新人の紹介は以上だ。
入ったばかりで、彼も分からない事が多いだろう。
皆、親身になって、助けてやってくれ。頼んだぞ。
では、以上だ。解散!
園田、お前は葛城についていてやってくれ。
お前も経験済みだと思うが、ここでは、デビルバスターに対する風当たりは、かなり強いからな・・・・・」
「・・・・・・・そうですね。」
「それと、お前の部屋を、葛城にも使わせてやって欲しい。
その方が何かと都合がいいだろう。」
「分かりました。」
「済まないが、宜しく頼む。
さて・・・・・・ここで、葛城君に会わせたい人物がいる。
・・・・・入りたまえ!」
ドアを開くとそこには懐かしい二人がいた。
だ一日も別れていないのに、何年も会っていなかったようにも感じられた。
「葛城君!生きて・・・・・生きていてくれたのね!!」
そういう桐島の目からは大粒の涙が、関を切ったかの様に溢れ出した。
「葛城、再び生きてお前に会えるなんて・・・・・・俺は・・・・・・・・」
思いもよらぬ再会に、早坂の目からも、堪え切れない涙が溢れ出した。
「お互い・・・・積もる話も色々とあるだろう。
私は、これで失礼するよ。」
「俺も・・・・外で待ってるよ。
「あ・・・・・ぼ、僕も外で待っています!」
渡邊も園田も上河も、僕達に気を使い、出て行ってしまった。
ペンタグラムの詰め所の中が、まるで、かつてのシェルターの詰め所の中の様に思えた。
こうしている内にも、扉を開けて由宇香が現われ、山瀬や西野が奥から出て来る様に感じた。
知らずうちに、両目からも、一筋の涙が伝え落ちていた。涙によって言葉を紡ぎ出す事ができなかった。
「葛城くん・・・・・」
「葛城、ペンタグラムは今、悪魔の手から新宿を解放しようと、様々な試みを行なっている。
その中でも最大規模の作戦、新宿労働キャンプの解放、そして、都庁の奪回が、近々決行されるだろう。」
「私達は、どんな事があっても、この作戦に参加しようと思っているのよ。」
「それが、隊長の思いを果たす事にもなるんだ。
だから、葛城、お前にも協力して欲しい。」
「都庁には、バエルもいるって情報なの。
バエルと言えば、ムールムール達を操って、私達のシェルターを壊滅させた張本人よ!」
バエル!!
その悪魔の名前を聞いただけで、体の中で熱いものを感じた。
西野さん。陽子さん。知多。
そして………由宇香の仇。
殺意が心を覆う。
「・・・・・・・黙ってはおけないだろう。」
「ああ。」
「俺達は渡邊さんに会って、何とか、この作戦に入れてもらえる様に、お願いしてみるつもりだ。」
「このままゆっくり、再会を喜んでいたいのだけれど、そういう事だから・・・・・・・・
色々と、急いで動かなきゃいけない事があるのよ。
だから、また、後でゆっくりと話しましょう。私は、女性用エリアの一室で寝起きしているわ。」
「俺は、園田君の隣の部屋だ。」
「何かあったら、私達に言って頂戴。」
「葛城・・・・・本当に無事で良かった・・・・・・
じゃあ、また後でな!」
二人は忙しいそうに詰め所を出て行った。
そして、そんな二人が出て行った後、園田が詰め所に戻ってきた。
「話が終わったみたいだな。
・・・・・・・じゃあ、部屋に案内するよ。」