園田に案内された部屋は雑多とした狭い部屋だった。
あるのは、五つの簡易ベットと無造作に置かれた武器だった。
中には2人のレジスタンスがいた。
一人は明らかに軽そうで僕と同じくらい年の戦士で、もう一人は中年といってもいい風貌で銃の手入れをしていた。
「新入りか。…デビルバスターか。」
「俺の名前は真治と言うんだ。よろしくな。」
「僕の名前は葛城といいます。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いしますか…。
ふん……デビルバスターだか何だか知らねぇが、自分の命は自分で守るのが鉄則だ。
誰かが助けてくれる・・・・・なんて、甘い考えは、ここに来たからには一切捨てな。」
「またまた卜部先輩、園田さんのときにも同じようなこと言いましたよね。
そりゃ、シェルターの連中はむなくそ腹立つけど、昔はどうあれ、ペンタグラムの一員なんだから仲良くしなきゃ。」
「別に俺は、デビルバスターだからって差別はしない。
良い意味でも、悪い意味でもな…」
「まあ、確かに卜部先輩っていつも無愛想だけどね。
うーーん…やっぱりちゃんと言っといたほうがいいかな。
まあ、ちょっとした忠告なんだけど。
もし、ここで上手くやってきたいんなら、何言われても我慢する事だな。
難癖つけられても、相手にしない方がいいぜ。
乗せられて怒ったところで、無意味だからな。
皆、シェルターの人間の事は、毛嫌いしてるんだ。
まして、デビルバスターだなんて、もっての他さ。
特に反感を買いたくないなら、その格好何とかしろよ。
ちゃらちゃらとデビルバスター制服なんざ着てると、血の気の多い輩にヤられるぞ。」
「この服は………親父の形見なんだ。」
「…すまん、悪かった。それじゃ、脱げねえよな。
そうか。お前もそうなんだな。シェルターも崩壊してるしな。
ここペンタグラムには、自分の行く所も、生きる術も持たない人間が集まって来るんだ。
まあ、一見皆、呑気そうにしていても、ここにいる人間の数だけ、悲惨な人生の縮図があるんだよ。
無論、皆それを断ち切る為に、ここに来たんだけどね。」
「そうだ。」
それまで黙って銃を組み立ていた卜部が喋り出した。
「俺達は、大義名分なんてどうでもいい。
皆、戦うしかないんだよ。
皆・・・・・・失うものなんて、命ぐらいしかないんだ。
一人なら、悪魔に簡単に摘め取られちまう様な、ちっぽけな命しか無いんだ・・・・・」
その悲壮がこもった声は、部屋を沈黙させるのに十分だった。
「…そうだ。ベットのことだけど、このベットを使ってくれよ。ちょうど、このベット空いたんだ。
まあ、ここでの生活は設備が行き届いて、そりゃキレイだったんだろうシェルターと違って、勝手が違うぜ。
ベッドは、米軍から援助された汚い簡易ベッド・・・・・・・・
ひとつの部屋に大勢ひしめき合って、何とか凌いでいるんだ。
こんなでも、瓦礫の冷たいコンクリートの上に、ボロ布一枚で寝るよりは快適だし、安全だから、誰も文句は言わないんだよ。」
また、部屋には沈黙が支配した。
「俺、食料持ってくる。」
沈黙に耐えられなかった様に園田が部屋を出て行った。
「しかし、お前達も、大変な時に入ってきたモンだな。
もうすぐ、新宿労働キャンプと、都庁の解放作戦が決行される。
新人だからって免除される訳じゃないぜ。
まあ、死なない程度に頑張るこったな!」
「僕はどっちに参加できるのだろうか?」
「さあ、それは渡邊さんたちが決めることだ。
俺たちは都庁解放に向かうけどさ。」
「そうか……。」
静寂の中、卜部の弾丸を削る音が流れる。
「今まで、見向きもしなかったシェルターを、悪魔が襲い出したのは、少々気にかかるな。
労働力ならば、地上で十分賄えるはず・・・・・・・・ふむ、分からんな。」
次に沈黙を破ったのは卜部だった。
しかし、彼はそのまま続けることなく、再び黙った。
園田が部屋に戻ってきた。
4人分の配給食を持ってきたようだ。
「これは葛城君の分だ。」
渡された配給食は、パン一つに具が入っていないスープだった。
しかし、そんなみずぼらしい食事でも空腹の身にとってうまく感じられた。
腹が溜まったら、急に睡魔が襲ってきた。
「早く眠ったほうがいいぞ。いくら治療したとはいえ、その傷を治すには早めに寝たほうがいいぞ。」
そんな園田の言葉に素直に従うことにした。
これは夢なのか?
俺はどこにいるんだ。
嵐の海を一望できる岬の上で俺は弓を引いている。
その矢の先には布一枚しか羽織っていない一人の美しい女性がいた。
その人は…いや人ではない。
彼女の頭には三日月のような角を二本生えている。
彼女は柱に縛られていた。
何かに恐れているようだ。
俺はどうやらその何かを狙っているようだ。
嵐は続く…。
嵐が一瞬途切れた。
嵐は通り過ぎたのか?
いや、現れる。
やつが………。
海面から巨大な水柱が現れる。
それは女性に向かって突進してくる
俺はその瞬間を狙って、矢を放つ。
「なぜ、私を見捨てるのですか?」
その女性は俺に話しかける。
「なぜですか?」
俺は何も答えられなかった。
「葛城くん。どうして、私を見殺しにしたの。」
その女性は由宇香になっていた。
彼女の姿は血で赤く染まっていた。
「……葛城くん。…私…を………」
絶叫とともに眠りから目覚めた。
その叫び声を聞いて、ほかの三人も起きたようだ。
「…まったく迷惑だ。たかだか住処を失ったぐらいで、悪夢を見るとは。」
「大丈夫か。」
「葛城くん。眠れないならこの薬を飲むといい。…俺もここに来たときお世話になった。」
園田から二錠の薬を手渡された。
それを口に含むと、苦い味が口いっぱいに広がった。
「俺もここに来たころは、悪夢に悩まされたさ。今でも忘れられない。
ゾンビや悪魔と化した友人を一人一人この手で殺したときのこと。
そして、隊長や同僚たちが悪魔と化した時…………。
俺と上河はあの時、逃げたんだ。
デビルバスターとしての役割を捨てて、逃げた。
今でも時々見る。
彼らが俺に訴えかけてくる。
『俺を殺してくれ』と。
そんなときは、その薬を飲むんだ。
翌日まで、ぐっすりと眠れることができる。
すまんな、つまらない話をし…………」
最後の言葉を聞く事なしに、深い眠りに落ちた。