「俺たちは電撃部隊だ。危険は承知だが、俺から志願した。
もし電撃部隊が不満なら、いまから部隊編成を変えてもいい」
園田はすこし躊躇いがちに言った。
「むしろ望むところよ」
「そうだ、俺たちはシェルターのみんなの仇を取りたいからこの作戦を参加している。
バエル退治を他の人に譲る必要ないぜ」
「園田さん、もちろん僕も不満ありませんよ。
葛城さんは?」
「もちろん賛成だ。由宇香の…仇をとりたい……」
「よかった。幹部の中には俺たちを電撃部隊に編入することに否定的だったが、無理言って編入させてもらったんだ。
じゃあ、三階に行くぞ」
「はい!」
荷物を持って、特徴的な螺旋階段を上り、二階へ向かった。
非常階段を上り、三階に辿り着いた僕たちが見たものは人間大よりすこし大き目のロボットだった。
何人かのレジスタンスが調整しているようだった。
「もしかして、ヤクトアーマー? すごい!はじめて見た!!」
桐島の目がなぜだか輝いている。
「英美、突然どうした? あれは何なんだ?」
「達也、あれはね、大破壊前自衛隊が開発していたといわれているパワードスーツ『ヤクトアーマー』よ。
資料では見たことがあるけど、本物がまだ稼動できるなんて信じられない」
「シェルターで使われていた『東雲』とはだいぶ違うな」
園田が興味深そうに見ている。
「ヤクトアーマーはボディアーマーの東雲と違って、機械が筋電を感知して動作を予測してそれを補助するの。
人間の筋力の十倍の力を出せると書いてあったわ」
「ふーん、そんな便利なものを何でシェルターでは使わなかったのだろう?」
つい疑問を口に漏らした。
「パワードスーツは自衛隊の秘密兵器だったというし、大破壊前シェルターを造った政府とクーデター部隊は対立していたから技術が伝わなかったということもあるけど、
一番の問題は体内のマグネタイトの流れを邪魔すること」
「どういうこと、英美?」
「達也は生体内マグネタイトの操作つまり魔法を使えないからあまり影響を受けないと思うけど、
このタイプのパワードスーツの電力源として使われているのは超小型常温核融合炉が高エネルギーの電磁波が発生して
生体内のマグネタイトの流れを狂わせるの。そうなると魔法もうまく発動できないの。
さらに全身電流を流すから電磁誘導の生体内マグネタイトへの影響も大きいわね。
だからデビルバスターのボディアーマーは出来るだけ魔法に影響を与えないように機械式にしていない。
もちろん私たちが持っているシェルター製のアームターミナルもそれなりの対策をしているから電磁波の影響を受けずにすんでいるの」
ここぞとばかりに桐島はしゃべり続けている。
「大昔習ったことあるなあ。葛城、憶えているか?」
「デビルバスター試験落第者に聞くなって」
「ハハハ、そうだな。で、なんで自衛隊は魔法のことを考えなかったんだ?」
「今は魔法使える人は珍しくないけど、大破壊前はそんなに魔法使える人はいなかったらしいよ。
でもね、デビルバスターがこれだけ魔法にこだわっていたのはもともと宮内庁の特務機関として退魔師が創立したものだったから、魔法のノウハウがあったためだと思うよ。
シェルター内で魔法使える人が多いのは素質ある人を集めていたと聞いたことがあるわ。
もっとも優先的に入れたのは政府高官とその家族、そしてコネがあった人だったけどね」
「そうだったな…」
早坂の言いようも無い呟きが聞こえた。
由宇香の父のことが頭の片隅から思い出した。
自分の保身のことしか考えなかった男。
でも、どんなに悪口を言っても由宇香は結局父親を憎みきれなかった。
「……いじってみたいなあ。どういうOSが使われているのだろう……」
「お譲ちゃん、勝手にいじってもらっては困るんだな」
後ろから野太い声が聞こえた。
「そいつは俺用に調整した最高の一張羅だからよ」
後ろを振り返ると頭ひとつ分背の高いがたいのいい親父がいた。
「九条さん、お久しぶりです」
「久しぶりだな、園田、上河。噂は聞いているぜ。よく生き残ったな」
「あの作戦に成功したのはこの三人のおかげです。
……特に葛城さんはあのダンタリオンを退けたですよ」
じろじろと見られている……
「こいつが……こんな優男が…まあ上河が言っていることだし信じてやるか。
…まさかお前が悪魔使いなのか?」
すこし考えたあと、急に尋ねて来た。
「ハイ」
「納得納得。悪魔使いはなぜかしぶといやつらばかりだからな」
背中を叩かれて痛い…
「俺の名前は九条司郎。一佐と呼んでくれ。大昔自衛隊でこいつのパイロットだった。よろしくな」
「私は桐島英美です。シェルターでは主にメカニックとヒーリングをしていました」
「俺は早坂です。主に接近戦闘……」
「そんな堅苦しい挨拶はいい。
もっと親しげに話し合おうぜ。
…そのアームターミナルに悪魔召喚プログラムが入っているのか。
まあ、今回はそのプログラムを使う暇も無いと思うがな。
なんたってこの『ハイライン』があるからな」
「ハイライン?」
「知らないのか? まったく最近の若い者はハイラインも知らないとはな。
このヤクトアーマーの名前だよ。」
「もしかしてSF小説の作者?」
「おっ! 詳しいな、お譲ちゃん。
生きて帰ったらこいつをいじらせてやるよ」
「本当ですか?」
「俺は約束は守る」
「やった!!」
満面な笑みを浮かべている。
「ところでこれどうやって入手したのですか、九条さん」
「こいつはな、秋葉原の武器市で見つけた掘り出しもんのレストア品よ。
核融合炉がまだ生きているやつはなかなか無くてな、高かったんだぜ。
渡邊さんが気前よくマッカ出してもらったから思い切って買えた。
でもな、システムはかなり不安定でな、いまようやく動かせるようになった」
園田の質問にうれしそうに答えていた。
「武器はこいつだ。『DWB10エクスカリバーMkIV』だ。
こいつはレジスタンス純正開発のレーザー兵器でどんな悪魔でも焼き切れる威力を持つ。
しかしなエネルギー消費が高いし、さらに普通の人間が持てないほど重いから使えるものではなかったが、
この『ハイライン』があれば問題解決だ。
エネルギーは核融合炉から拝借すればいいし、なんたってこいつには自動照準システムもある。
ちゃんと動ければ無敵だよ」
「ちゃんと動かないのですか?」
桐島が残念そうな声で言った。
「故障はかなりある。内蔵兵器は今とても修理できない。
筋電センサーも調子が悪いらしく筋肉がある程度ないときちんと反応しないし、DBW10を撃つ時どうしてもシステムが不安定になってしまう。
あとな、階段ぐらいは上れるが、上の様子を聞くとその階段が破壊されているらしい。
だからこそお前たちにエレベーターを解放してもらいたいのよ。
特にバエルが立て篭もっている最上階のエレベーターの扉を解放してくれれば、俺一人でバエルを殺せるぜ」
調子よく喋っている。このままだといつまでも喋りそうだ。
「Mr.九条」
「ハッ!ロナルド司令官」
いつの間にロナルドが立っている。
「ヤクトアーマーの準備はもういいのかね?」
「いえ、微調整が残っております」
「では、無駄口をやめて早急に終わらせろ」
「はっ!ロナルド司令官」
九条さんはヤクトアーマーに乗り込む準備をし始めた。
ロナルドは僕の方を向き尋ねて来た。
「Mr.葛城。君は悪魔召喚プログラムを持っているのだな?」
「ハイ、ロナルド司令官」
彼は険しい表情をしている。
「今回の作戦にそのプログラムを使わないでもらいたい」
「どうしてですか?」
上河が僕より先に反論した。
「Mr.渡邊はそのプログラムを有効活用しようとしているが、今までそのプログラムはそのように活用されたことは無い。
私は何人もの悪魔召喚者を見たことがあるが、彼らの多くは悪魔に支配されていた。
ペンタグラムの作戦のため悪魔使いを雇ったこともあるが、彼らは己の力に過信しわれわれの作戦を台無しにした。
そのプログラムは危険だ。
そして悪魔を使い悪魔と戦うことは、われわれペンタグラムの信念たる『人間の手による悪魔への勝利』が意味を成さなくなる。
もし私の命令に異議があるならこの作戦には外れてもらいます」
「そんな……葛城君の悪魔召喚プログラムによってあたしたちが今までの戦いを戦い抜いたのです。そんな命令従えません」
「ここでは私が司令官だ。たとえ労働キャンプで輝かしい戦績を残したとはいえども、私はデビルバスターを特別扱いにしない。
この作戦には悪魔召喚プログラムは不要だ」
僕らの間に沈黙が走る。
みんなが見守る中僕は苦渋の決断をした。
「分かりました」
由宇香の仇がすぐ上にいるのにここでやめるわけにはいかない。
僕の返事にみんなホッとはしたものの、これで悪魔との戦いは危険が増えることになる。
「よろしい。ならすぐにエレベーターへ向かえ」
僕たちはレジスタンスが待機しているエレベーター前で作戦の開始を待った。