偽典・女神転生 東京黙示録

第五話「崩壊」

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詰め所の出ると、ポルターガイストを始めとする霊体型の悪魔が多数出現していた。
隊長の命令で、悪魔との戦闘は最小限に抑え、状況の確認を行った。
B6Fのレクリエーション施設では、人影が見られない。
ただ、戦いに敗れた数人のデビルバスターの死体以外に存在していたのは、
無定型悪魔のスライムや血みどろの手しか存在しないスタンパーしかいない。
食堂の中に踏み入れた。
しかし、誰もいない。
どうやら全員避難したようだ。
食堂を立ち去る時、早坂の独り言を聞こえた。
「おふくろ・・・・・・・・・無事でいてくれ・・・・・・・!」
「達也・・・・大丈夫よ。きっと避難しているわ!」
B6Fの他の施設もすべて人影がない。
死体がなかったことは、ほんの少し安堵を得ることが出来た。
確か、この階の避難場所はファームだったはず・・・・・。
隊長に命令されるもなく、皆の足はファームに向かった。
ファーム内に入ると、無数の人が心配そうにこちらを見つめた。
どうやら、この地区の管理人らしき科学者が歩み寄った。
「皆さん、ご無事ですか?」
西野さんの問いに科学者が答えた。
「この階の人間は、概ねここに避難しておるよ。
悪魔の数が、急に増え出したそうじゃないか。」
「御迷惑掛けております。」
「それより、警護していたデビルバスターの姿は、見られんかったな。
まあ、みな対応をしてくれてるんじゃろう。
ありがたい事じゃ。
貴方がたも、頑張って下されよ。」
ところどころでざわめきが上がっている・・・・・・・
「ねぇ、はやく何とかして頂戴!!
悪魔を倒すのが、デビルバスターの役目でしょう!!」
そんな声も聞かれた。
早坂は自分の両親がいないか見回したが、どうやらまだ見つかっていない様だ
「どうやら、この階にいる人は異変が起きた直後にファームに避難したようだな。
次の階に行くぞ!!」
西野の声でしぶしぶ早坂もフォームから出ていった。
一階降りたB7Fでも通路には非実体型の悪魔が存在していた。
人影はない・・・・・・どうやら、各々の部屋の中で避難しているようだ・・・・・・
病院の中に入ると、医師が大慌てでこちらに近づいた。
「一体何があったんですか!
患者の混乱を抑えるのが大変です!管理部にも連絡がつかないし・・・・・・・・」
「先生!患者の容態が!!」
「分かった!今行く!!
クソッ・・・・・早く何とかして下さいッ!!」
病院に避難した人、入院しているものが、次々と不平不満を言い出している。
「・・・・・悪魔がシェルターに・・・・・そんな・・・・・もう終わりよぉ!」
「一体どうして・・・・・・・・・悪魔がシェルターに・・・・・・・」
「シェルターの結界は・・・・・・絶対安全な筈じゃあ・・・・・」
「おい、一体外はどうなっているんだ!」
「皆さん!落ち着いて・・・・・・!」
「皆さん落ち着いて下さい!
今、デビルバスターの方々が原因解明の為、頑張って下さっています。
それに、ここ医療施設は、管制コンピューター室と同じレベルの防護シールドが機能しています。
ここは安全です!皆さん落ち着いて下さい・・・・・・・!!」
「早く何とかしてくれ!!」
看護婦の必死の説得でも、混乱は収まらなかった。
また、別の医師が隊長に話し掛けた。
「避難してきた方々をとりあえず収容しましたが、このままでは、
怪我人が出た場合の対処に支障をきしてしまいます。」
「入院患者にも迷惑が掛かりますし・・・・・・・
どこか別なエリアに避難場所を移動できないのでしょうか?」
「我々も最善の協力を致しますから、どうかこの件を至急検討して下さい。」
「お願いします。」
「ああ、検討する!それまでここで対処してくれ・・・・・」

病室を出て、部屋に避難している住民の様子を確認していった。
そして、西野さんの家に入った。
陽子さんも知多も無事だった。一瞬、西野さんの表情に安堵が漏れた。
「貴方、一体何があったんですか?!」
「パパー!僕も悪魔を見たよ!!」
「部屋から出てはいかんぞ。
そして、何か指示があったら、速やかにそれに従いなさい。
知多、お前は男の子なんだから、わがままを言わずに、ママを守るんだぞ。
分かったね?」
「うん!!」
「何かあったら、私の通信に知らせてくれ。」
「分かりましたわ。
貴方・・・・・・気を付けて。」
「パパ頑張って!葛城御兄ちゃんも!!」
「おとなしくここで待っているんだぞ、知多」

どうやら多くの人が無事部屋に避難しているようだ・・・・・・
しかし、デビルバスターの姿が見られない・・・・・・・・・
ひとり部屋で殺された者以外、影も形もなかった。
その殺された人も、今出現している悪魔によって殺されたようではなかった。
「・・・この人・・・・ムールムールに殺されたみたいね・・・・」
桐島は解析結果を伝えた。
「・・・・隊長!!おかしくありません・・・・・・・・
なんでデビルバスターだけがいないですか?」
山瀬が不満そうに言った。
「分からん、これほどの異常事態が起きれば、B8Fの詰め所から出動されるはずだが・・・・・・・」
「・・・もしかして・・下の階が・・・・もっとひどい状況なの・・・・」
「この階の調査も終了して、下の階を確認した方がいいかもしれないな・・・・・」
そして、僕たちはB8Fに向かう階段に向かった・・・・・・

「万が一に備え、我々が援護する。
桐島、網膜照合を頼む!」
「了解!」
「英美ちゃん・・・心配するな。俺様の愛銃AKOちゃんで何とかしてやるぜ・・・・」
山瀬の戯れ言も聞かないで、
英美が、網膜キーのロック解除のため前に出た。
レンズに目線を合わせ、ロック解除を待つ英美・・・・・
しかし、どうやら様子がおかしい。
「あれ?なんで?なんでロックが開かないのッ!!
「どうした、桐島!」
「た、隊長!・・・・・網膜キーが変更されています!」
「何だと!!」
「キャアアアアアアアアアア!!」
その時、辺りをつんざくような、甲高い女性の悲鳴が聞こえた。
声はどうやら、医療施設の方からの様だ。
「なんだ、今の悲鳴は?!」
いち早く早坂が反応した。
「壁の向こうから・・・・・・・・って事は、医療施設か?」
「ひょっとして・・・・・・悪魔が!?」
「ここは後だ!医療施設に向かう!!」
「了解。」
すぐに病院に向かった。

悲鳴の主とおぼしき看護婦が、ガタガタと震えながら立っている。
「一体、どうしたんだ?!」
西野さんの落ち着いた口調が看護婦を少し正気に戻した。
「せ・・・・・先日亡くなられた、橘美莉ちゃんの死体が消えているんですッ!!
・・・・・しかも・・・・・それ・・・・・・」
そう言って看護婦が指をさした先を見ると・・・・・・・・
まるで、その小さな死体が自力で歩いたかの様に、小さな足跡が続いていた・・・・・
保存ケースの温度は、既に冷たさなど感じない温度にまでなっていた。
看護婦や医師らに尋ねたところ、今日霊安室に入ったのは、先程の死体消失に気付いた時で、
それ以前に入ったのは昨日、それも夕方よりは前だという事だった。
状況から見て、死体が消えたのは、施設が機能し始めるよりも前・・・・
昨日の深夜か、今日の早朝の間だろうと考えられた。
「死体がひとりでに歩き出す・・・・としたら、考えられうる最も可能性の高い現象は、死体のゾンビ化だ。」
西野が冷静に分析した。
「でも、いつ美莉ちゃんが、ZMVに感染したんでしょう?」
「ムールムール・・・・しかあるまい。」
「あ・・・そうか!」
「しかし、ゾンビ化した死体は、一体何処に?」
桐島と早坂の会話がそこで途切れた。
その問いは西野さんが答え始めた。
「私の経験から言えば、ほぼ間違いなく自宅に帰っているだろう。
ゾンビというのは、死後それほど時間が経っていない場合、生前の習慣に関する記憶が残っており、それに従うのだ。」
「でも、普通は死んだはずの娘が帰ってきたら、通報するのでは?」
確かに早坂の疑問は僕も感じた・・・・
「例え変わり果てていても、肉親は迎え入れてしまうものだ。
ゾンビ化している事が分かっていても、周囲には隠し、匿ってしまうケースが圧倒的に多い。
そして、ゾンビ汚染の最初の犠牲者になるのは、その家族達だ。
私は何度も、そういったケースを見て来た。」
「でも、誰かが気付いて、通報するんじゃないですか?」
「一旦、汚染源が隠されてしまうと、それなりの規模まで汚染が広がらない限り、周囲は気付かない場合は多いのだよ。」
「それで、ゾンビ汚染というのはこっちから見たら、一斉に感染したみたいに見えるんですね。」
「例外もあるがね。居住区での汚染は大概がそうだな。」
経験に基いた西野の言葉によって一種の寒気を感じた。
「父よ・・・・やっぱり、父がやったんだわ!」
由宇香の父親は・・・確か管理部の人間であり、西野達デビルバスター部隊全体の上官。
たしか名前は・・・・・橘兼嗣。
「美莉を守る為に・・・・・私達に知られない様に網膜キーを変更して・・・・
そして・・誰にも通報されない様に・・・通信を遮断したのよ・・・・・・・
・・・沢山の人々が・・・・巻き添えになる事を・・・・・知っているのに・・・・」
「何だって!!」
「待ってよ、橘さん。
幾らなんでも、貴方のお父さんが、そんな事する訳ないわよ。
自分の身だって、危険にさらされるんだし・・・・・。」
「自分の安全は、確保してると思います。
何処かに潜むとかして・・・・・・父は、そういう人なんです。」
信じられないことだった。
「網膜キーの変更は、直属の上官以外には不可能なのだよ。」
「隊長も、父がやったと思われるんですね。」
「あるいは・・・・と考えていたが、こうなっては確信せざるを得ない。」
「じゃあ、下の階の人間は全てゾンビに?」
山瀬の推測は哀しい絶望を僕たちに与えた。
「それは、まだ分からない。
逃げる事が出来た人間が、我々の救援を待っているかも知れん。
山瀬、お前は医師らなどに手伝わせ、この階から上の住民を全員ファームに避難させてくれ。」
「アイアイサー!」
「ただ、これから言う事だけは、厳守してくれ。
住民全員を避難し終えたら、内側から扉をロックする事・・・・・
そして、通信で連絡してきた場合以外は、如何なる場合であっても・・・・・
例え、私自身や、他の住民が扉を開けろと言って来ても、決して扉を開けてはならない。
また、それに反対する人間が内部に現れたら、混乱を避ける為、その人間を拘束する様にしろ。
分かったな!」
「ラジャー!」
山瀬は、住民を避難させる為に外に出て行った。
外から、山瀬が医師達に、大きな声で指示しているのが聞こえる。
「下の階からこの階に通じる、全ての出入り口を一旦封鎖する。
この階へのゾンビの侵入は、何としても防がねばならん。
早坂と桐島、お前達は二人で溶接用の機材を取って来てくれ。」
「了解!」
「葛城と橘の二人は、エリート居住区から、レクリエーション施設へ続いている、直通エレベータ前を見張れ!
私は、この階にある階下とつながる階段を見張る。
史人、この銃を持っていけ。魔法だけじゃこれからの戦い生き残れないぞ。」
「・・はい・・・・西野さんありがとうございます。」
「礼はいい、早く行け!!」
「私達も急ぎましょう!!」

直通エレベーター前にたどり着いた。
銃をしっかりと構え、二人はエレベーター前の扉を凝視した・・・・・・・
糸を張り詰めた様な、鋭い緊張感が二人の間を支配した。
「・・・・・ねぇ、葛城くん。
この音・・・・・聞こえる?」
由宇香が言う様に、先程から、確かに低い音が聞こえて来ている。
「・・・・・・・・・大変!エレベーターの上昇音だわ!!
通信で隊長に知らせなきゃ!!
こちら橘。
エレベーターで上昇してくる者あり!」
『了解!ちょうど、扉の溶接作業を終えた所だ!
すぐにそちらに向かう!!』
ゆっくりと扉が開く・・・・・
そこには、引きちぎられた女性の腕を抱えた美莉が立っていた。
「あ・・・あの指輪!・・・・・可憐さん・・・・の・・・・・・・・・・」
それを見た瞬間、由宇香の身体が、ぐらりと僕の方に倒れかかって来た。
崩れる由宇香の体にぶつからない様に、咄嗟にその場を避けた。
ちょうどその時、西野達が駆けつけて来た。
「史人、橘君を医療室まで運べ!
ここは、我々で何とかする!!
医療室に入ったら必ず、扉をロックしろ!」
僕は由宇香の身体を抱え、黙って頷いた。

「あ・・・・・葛城くん・・・私・・・・・・?」
医療施設に入った時、由宇香の意識が戻った。
「大丈夫?」
「・・・・・・うん・・・・・大丈夫だと思う・・・・・・・・」
由宇香はそう言いながらも、まだ足元がふらつき、顔色も良くない。
「ベッドで休んだほうがいい。」
由宇香に病室のベッドで休む事を提案した。
「・・・・・・・ありがとう・・・・・そうさせてもらうわ・・・・・・」
由宇香は、力無く答える。
僕は、由宇香に肩を貸しながら、病棟の一室に入った。
「ありがとう、葛城くん。
やっぱり、何だか気分が悪いの・・・・・吐きそうな感じ。」
由宇香は真っ青な顔をしてそう言った。
・・・・・・・無理もない。あんな事があったばかりだ・・・・・・
「何か出来る事ある?」
「大丈夫、自分で何とか出来るわ・・・・・。
でも、服とか少し緩めたいの・・・・悪いのだけど・・・・・。」
由宇香は少し頬を赤らめ、目を逸らしながらそう言うと、後ろを向いてしまった。
「じゃあ僕はこれで」
僕は慌てて退室する事にした。
「葛城くん、ありがとうね。」
病室を出て、外で待つことにした。
そうだ、一言忘れた・・・・・・・
何かあったら呼んでと言わないと・・・・・・
病室の中に入ると、
「きゃっ!
ひどいわ、葛城くん。入ってきちゃいや・・・・・・。」
ベッドの上には、由宇香のタンクトップが、きちんと畳んで置いてあった。
・・・お・・・・・・・・・という事は、今ブルゾンを脱げばトップレスである。
「もう・・・・・出て行ってくれなきゃ、私、動けないわ。」
これ以上いると嫌われそうだ。
今は想像だけに留め、僕は病室の外に出た。
結局言えなかった。
仕方ないので、医療施設入り口で見張りをすることにした。

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